元自衛官 荒谷 卓

真の開国とは

 戦後の日本は、米国の対ソ戦略によって作られ、冷戦終結後も米国の戦略枠組みの中から一歩も抜け出せない状態が継続している。これはなにも、安全保障や金融など国際政治だけの問題ではなく、マクロ経済がミクロ経済を飲み込んでしまうように、国民の福祉や教育でさえも、米国からの要求の影響を受けて決定されている。したがって、戦後政治を変えよとするなら、当然、対米関係の見直しを図らなくてはならない。
民主党政権が、政治を変えると大見得を切ったところで、ある意味自民党政権以上に米国に擦り寄った現状では、何も変化は期待できないどころか、いっそう米国の思惑の中に引きずり込まれようとしている。米軍基地も元に戻し、郵政も見直ししない。そして、遂にTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)を推進することを重要課題として内閣を改造した。
TPPとは一体何なのか。米国の広報誌のような日本のメディアの報道や米国の支援で飯を食っている評論家の解説を鵜呑みにするわけにはいかない。
冷戦間、米国は、日本人を無防備のまま経済的に肥満化させた。そして冷戦後、米国の戦略に占める日本の地位は一転した。さらに中国が経済的パートナーとして台頭したことによって、日本の戦略的位置は台湾並みに低下した。現在米国の日本に対する期待は、日米二国間交渉やTPPのような多国間協定の枠組みで、冷戦簡に稼がせた日本の資産を吸い取ることだ。あるいは、リスクの高い中国市場に日本の資産を投入させて中国を肥満させようという思惑だろう。
自由貿易というが、TPPの加盟する国で、実際に大きな市場と呼べるのは米国と日本だけ。日本が、TPP協定を結んだとたん、今一時的にとめている円ドル為替レートを1ドル70円から50円まで下げたら、結果は火を見るより明らかだ。いくら優秀な日本人がすばらしいものを作っても、海外市場で価格が倍増すれば誰も買わない。一方、日本国内では、現在の半額以下になった米国やオーストラリアの商品が押し寄せてくる。極端なデフレで国内産業特に農業は破壊され、日本の資産は全て海外に流出する。つまり、日米2国間協議で回収できなかった日本の資産を、今度は、TPPというより強力な多国間協定を使って剥ぎ取ろうということに他ならない。
とるだけとって日本の資産もそこをついたころ、日英同盟がそうだったように、米国にとっての戦略的価値を失った日米同盟関係は間違いなく解消されることだろう。
米国の言うこときいて国を存亡させることに、何の罪悪感も持たない者達に日本の舵を任せるわけにはいかない。

 そもそも、稲作は日本にとって格別の意味がある。
天照大神の「齋庭の稲穂の神勅」に「吾が高天原に御す齋庭に稲穂を以て、亦吾がみこにまかせまつる」とある。「豊葦原の瑞穂の國の民の活くべき道とせよとの大御心」であろう。天皇陛下が、皇居で御自らお田植えをし、秋には実りを感謝し新嘗祭に臨まれる意を、国民は体さなくてはならない。
日本人が、人々が共に助け合い収穫を分け合う家族的社会をつくり上げ、自然の一員としての存在をわきまえ自然と共生する文化を育んでこれたのは、稲作を中心とする生活文化があったからだ。稲作の荒廃と共に日本社会もすさみ、日本人の心は穢れていく。

 TPPを推進しようという者の中には、TPPは日本の第二の開国で、これに参画しないと中流国になってしまうと警告している者がいる。
他国から脅かされて国を開いた国は滅亡する。ペリーの軍事力による恐喝に屈して開国した徳川政権は、それゆえに倒幕され明治維新となった。明治の御世になり、明治元年三月、明治天皇は『明治維新の震翰』で「遂には万里の波涛を拓開し、国威を四方に宣布し、天下を富岳の安きに置かんことを欲す」として、開国することの意味をお示しになった。つまり、強制されて開国するのではなく、我が国の大義を世界に広めんとするからであるとの決意である。だから、明治天皇の下、日本は世界の大国に成長したのだ。
そもそも、大国とは、独自の大義を以って世界に影響力を与える存在のことを言う。米国の戦略の中で生かされている国は、いくら経済力が大きくなったところで大国とは言わない。
日本が本当に大国として第二の開国をするというのならば、日本が独自の大義に立ち返り、それを持って世界に宣布しようと決意を固めるときである。

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