元自衛官 荒谷 卓

我が国独自の対北朝鮮政策を

国際政治において、半島問題は10年前とでは根本的な変化をきたしている。その最大の原因は中国である。少なくとも、米国にとって、半島問題は対ソ・対中戦略の中で捉えられていた。冷戦が終了し対ソ連略が見直され、中国の戦略的位置づけが経済的パートナーになった現在、半島問題は核の管理を除けば戦略的課題ではなくなった。

対中戦略上、北朝鮮あるいは統一問題をどう扱うかというのは、日米間の共通的戦略課題であった時期は、日米韓3カ国調整グループ(TCOG)等が積極的意味を持っていた。しかし、そうした時代に日本は、きわめて消極的な対応しかとっておらず、例えば、このTCOGも、防衛・安全保障問題を扱っていたのだが、当時の防衛省は参加していなかった。

このような日本の対北朝鮮問題への消極的対応を、拉致問題は大きく変化させた。もちろん、政府の主導ではなく国民のこの問題への関与がそうさせたのである。
しかし、米国の対中政策の転換に伴い、わが国の半島政策は、全面的に米国との共同歩調をとりえる時代ではなくなった。国際政治が積極的に対北朝鮮政策を検討していた時期に、日本も積極的に関与していれば大きな成果があったかもしれないタイミングを逸してしまった。
したがって、今日本がなさなくてはならないのは、半島問題に関して、日本独自の戦略方針を定め、わが国と北朝鮮(対韓国も含めた)との広範な政策課題への基本方針を作らなくてはいけない。
平成11年当時、私がとりまとめた「朝鮮半島の将来と我が国の長期的対応についての検討」では、我が国の安全保障に関わる課題として、次の点について整理した。

●我が国を取り巻く国際関係に関わる課題
・国家間関係に関する課題
・多国間安保協力に関する課題
・日米安全保障体制に関する課題
●我が国の国内政策に関わる課題
・防衛力構想に関わる課題
・防衛力の運用に関わる課題

これらは、戦略環境の変化によって、全て見直される必要がある。ただし、変化の生じないものもいくつか存在し、例えば、軍備管理に関する課題などがそれである。

当時の私の整理した要点は以下のようなものである。

軍備管理について

○軍事的脅威の排除に関する日朝交渉では、北朝鮮にノドン、テポドン、NBC兵器を放棄させることを目的とする。ただし、BC兵器については、監視・査察が極めて困難であり、当面の軍備管理の対象となり得ず、我が国が実質的な影響力を行使する余地が小さいと考えられる。また、核とテポドン・ミサイルについては米朝交渉の主要議題となっているため、これらについては、専ら、米朝交渉を側面支援することに注力する。我が国は、ノドン・ミサイルの放棄に焦点を当てて交渉すべきである。

○軍事的脅威に関する交渉を、統一後の交渉に先延ばした場合には、統一に至る間の脅威が排除されないこと、及び統一後は情勢が固定化される可能性が高いこと等から、統一プロセスの間にこれを排除することに努めるべき。

○実現困難な軍備管理問題でも、半島平和に貢献する事項であれば、これを提案することによって、統一後の交渉において有利な環境を醸成できることがある。また、こうすることによって我が国の緊張緩和への積極的な取り組みをPRできる。

○軍備管理には、我が国が関与すべき場合と関与すべきでない場合がある。不注意に軍備管理プロセスに参入すると金銭的な負担だけを求められて、何らの利益を得られないという状況に陥ることもあり得るので注意すべき。

○中国のミサイルなどへの対処も考慮し、BMDを軍備管理にリンクさせることを避けるべきである。

そして、日本にとって、変化のない最大の課題が拉致問題である。ただし、対応は、米国依存から我が国独自の対策へと変えなくてはならない。幸い、拉致問題は対北朝鮮政策の中で、最も国民の賛同を得られる課題でもある。
これまでもそうだったように、国民運動により政府の良識ある対応を促したいものだ。

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