予備自衛官 葛城 奈海

日本の漁師が漁をできなくなった尖閣の海

28年2月 4日 産経新聞「直球&曲球」掲載

 いったいこの国に、国土や国民を守る気はあるのだろうか? 先月15日、石垣島の海人たちが、尖閣へ漁に行った。片道170キロの東シナ海を遥々渡って行ったというのに、ただの一匹も魚は釣れなかった。なぜか。尖閣諸島の2マイル(約3700m)以内に近づこうとすると、「日本人の上陸」を警戒する海上保安庁の巡視船やボートに阻まれた。それもあまりに近付くから、漁具を下ろしても魚がかかるはずもない。揚げ句、「中国公船が接近」してきたため逃げるように指示され、空身で帰ってきたのだ。
 平成22年の中国漁船衝突事件への政府の対応、特に命懸けで国の尊厳を守った海上保安官たちの崇高な行為を、事なかれ主義の国が踏み躙ったと感じた私は、政府がそんな弱腰なら国民が国家の意思を示すしかないと、同じ志を抱く仲間や石垣の漁師たちと、これまで15回、尖閣海域へ行った。当初は、上陸こそ禁じられていたものの島々に肉迫して漁ができた。
しかし、24年の国有化後、私達漁船が島の1マイル以内に近づこうとすると海保に阻まれるようになった。一方で、中国公船はその内側を遊弋しているのだ。なんという倒錯した光景であろう。一昨年からは、私達の出港さえ認められなくなった。そして、今回である。この対応はどういうことか。「日本の領海」なら、日本の漁師が漁をするのは当然で、それを脅かす外国船がいるなら、日本漁船を守って漁をさせるのが海保の務めではないのか。ところが、中国公船にはアリバイ作り程度に領海外への退去を呼びかけはするものの、実質的には事なかれ対応に終始し、日本漁船を追い払う。悲しいかな、事実上、中国の増長を手助けしているのが海保なのである。命令とはいえ、真に国を思う海上保安官ならやりきれないだろう。
 「あそこは、もう日本じゃないよ」。船長が告げる実態を、政府は、国民は、どう受け止めるのか。「主権、領土、領海を守りぬくことは、自由民主党が国民から課せられた使命です」。前日の『尖閣諸島開拓の日式典』に寄せられた、安倍首相のメッセージがむなしい。