自衛隊にはどれくらいのヘリコプターがあるのか?
- wix rbra
- 4月4日
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影本賢治
「どれだけ待てばヘリコプターは、あの轟くような音を立てて、あの鉄条網の中に降り立つのでしょうか。」—戯曲「よそのくに」(野村 勇)
現役時代、陸上自衛隊が保有する航空機の「管理替(かんりがえ)」を担当したことがあります。「管理替」とは、航空機の保有元となる部隊を変更する手続きのことです。新造機の配備や機体の用途廃止、定期整備などにより生じる機数の増減に対応し、機体ごとの特性や装備の違いを踏まえて、すべての部隊にバランス良く航空機を配分するという、大変骨の折れる仕事でした。
当時の陸上自衛隊のヘリコプター保有機数は、400機以上だったと記憶しています。現在の保有機数はどのくらいなのか、海上自衛隊・航空自衛隊も含めて確認し、それが十分なのかどうかを考えてみたいと思います。
自衛隊のヘリコプター保有機数
自衛隊が保有するヘリコプターの機数を調べるのは簡単です。毎年発行されている『防衛白書』に、正確な機数が掲載されているからです。このような情報が公開されることに賛否はあるかもしれませんが、私は公開に賛成です。というのも、防衛省が発表しなくても、他の公開情報から機数を推測することは可能ですし、むしろ機数を明らかにすることが、抑止力の一助となると考えるからです。
令和6年防衛白書に記載されている、ヘリコプター(練習機を除く、ティルトローターを含む)の保有機数は以下のとおりです。

陸上自衛隊が保有するヘリコプターは309機で、私が現役だった頃よりも大きく減少しています。これは、長年にわたる厳しい防衛予算の影響によるものです。ただし、近年、防衛費の増額が認められ、UH-2の新規調達などが進められていることから、今後は機数の回復が見込まれます。
意外に思われる方もいるかもしれませんが、最も多くのヘリコプターを保有しているのは航空自衛隊ではなく、陸上自衛隊です。ヘリコプターは地上部隊の機動力を確保し、迅速な展開を実現するために有効であり、陸上自衛隊が保有したほうが部隊と密接に連携した運用が可能だからです。
陸海空を合わせた自衛隊全体の保有数は454機です。これが多いのか少ないのかを判断するには、民間機や諸外国の保有機数と比較することが参考になるでしょう。
民間ヘリコプターとの比較
民間のヘリコプター保有数については、国土交通省が公開している航空機登録データから確認できます。
2025年3月時点の登録データをAI(Gemini Deep Research)を用いて整理し、令和6年防衛白書のデータと比較すると、以下のようになります。

日本にある全ヘリコプター1,303機のうち、民間ヘリコプター(消防・警察を含む)は849機(約65%)であり、454機の自衛隊ヘリコプターは約35%を占めています。
「レシプロ・エンジン」は、自動車と同様にガソリンを使うピストン式エンジンです。「タービン・エンジン」は、航空燃料を使うジェット式エンジンで、高出力かつ軽量という特長があります。また、エンジンが1基の機体を「単発」、2基以上を「多発」と呼びます(そのうち2基のものが「双発」です)。多発の方が出力が大きく、安全性も高いとされています。
自衛隊のヘリコプターはすべてタービン・エンジンを搭載した高性能機であり、その多くは多発機です。民間ヘリコプターにはないV-22やCH-47のような大型の機体もあるので、国内においては「35%」という数字以上の存在価値があると言えるでしょう。
各国の軍用ヘリコプターとの比較
海外の軍用ヘリコプターの保有機数を把握するのは容易ではありません。日本のように正確なデータを政府が公表している国は少ないためです。しかし、インターネット上には各種情報が存在し、中でもウィキペディア英語版は根拠が明示され、多くの人の手によって更新されているため、比較的信頼できる情報源といえます。
このウィキペディアの2025年3月時点のデータをAI(Gemini Deep Research)で整理し、令和6年防衛白書のデータと比較したものが以下のグラフです。

日本の軍用ヘリコプター(訓練専用機を除き、ティルトローターを含む)の454機は、イギリス(179機)を上回り、フランス(487機)に近い水準にあります。しかし、アメリカ(5,677機)の10分の1にも満たず、ロシア(1,697機)や中国(1,255機)にも大きく水をあけられています。さらに、ロシアとの協力関係を強めている北朝鮮(253機)にも、いずれ追い越される可能性があります。加えて、ロシアや中国、北朝鮮のデータは信頼性に乏しく、もっと多い機数を保有している可能性も否定できません。
注目すべきは、韓国が787機もの軍用ヘリコプターを保有している点です。特に陸軍の保有数は698機と際立っています。韓国陸軍と陸上自衛隊の規模の差(韓国陸軍の兵員数は約36万人)があるとはいうものの、より少ない兵力で、かつ地上での機動が制限される島国を守らなければならない陸上自衛隊の保有機数が309機にとどまっているのは、やや心許ないと言えるでしょう。
より詳細な機種別の機数については、以下のページでご確認いただけます。
AVIATION ASSETS 2025.03.21
主要国の軍用ヘリコプター保有機数
主要国(アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国、韓国、北朝鮮および日本)の軍用ヘリコプター(ティルトローターを含む、訓練専用機を除く)の保有機数を調べてみました。Wikipedia(英語版)のデータをGeminiのDeep Researchで収集したものです。日本の自衛隊については、令和6年防衛白書のデータを記載しています。国軍種機種機数アメリカ合衆国陸軍AH/MH-6M リトルバード (多用途/攻撃)47アメリカ合衆国陸軍AH-64D/E アパッチ (攻撃)824アメリカ合衆国陸軍CH-47D/F チヌーク (輸送/重輸送)510アメリカ合衆国陸軍UH-60 ブラッ...
実際に使える機数は少ない
多くの方が誤解しがちですが、自衛隊が保有するヘリコプター454機すべてが、常に任務に使えるわけではありません。
ヘリコプターは4~5年ごとに、IRAN(Inspect and Repair As Necessary)やPAR(Progressive Aircraft Rework)と呼ばれる大規模な定期点検を製造会社などで行わなければなりません。これには半年以上の期間を要し、その間は機体を使用できません。
また、部隊でも、飛行時間や使用期間に応じた定期点検や特別点検が必要であり、エンジンやトランスミッションなどの部品交換や分解点検も実施されます。不具合による予期せぬ修理が発生することもあります。これらの整備には、内容によっては1か月以上を要する場合もあります。
つまり、名目上の保有機数に対して、実際に飛行可能な機体はかなり限られており、特に部品の不足や人員の制約がある場合には、その割合はさらに低下します。加えて、不具合の発生に備えて予備機を確保しておく必要もあります。陸上自衛隊航空科部隊で勤務した私の感覚では、実際に任務に投入できる機数は、保有機数の6割程度にとどまるのではないでしょうか。
このような現実を踏まえると、自衛隊のヘリコプター保有数は決して「必要十分」とは言えません。有事や災害への対応、そして自衛隊による北朝鮮拉致被害者の救出には、滑走路がなくても離着陸できるヘリコプターの能力が不可欠です。ヘリコプターの飛来を待つ人々のもとに、それを確実に送り届けるためには、さらなる機数の充実が求められます。
影本 賢治:昭和37年北海道旭川市生まれの元陸上自衛官。昭和53年に少年工科学校第24期生として入隊し、平成29年に定年退職するまで、主として航空機の補給整備に関する業務に携わっていた。(本人HPより)
ジャスティン・ウィリアムソン (著), Justin W. Williamson (著), 影本 賢治 (翻訳)イーグル・クロー作戦: 在イラン・アメリカ大使館人質事件の解決を目指した果敢な挑戦
日本にはアメリカと同じことはできません。しかし、だからと言って何もしなくていいわけがありません。この問題を解決に導くためには、日本人ひとりひとりが自分にできることを実行することが何よりも大切だと思います。私にできることは、この本を翻訳することでした。そこには、アメリカ人の自国民の救出に向けた決意と覚悟が書き表されていました。本書が、拉致問題に対する日本人の意識にわずかでも変化をもたらすことを願ってやみません。(訳者あとがきより)
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