葛城奈海
『自衛隊・防衛問題に関する世論調査』(今年1月内閣府)をめくっていて、「もし日本が外国から侵略された場合は?」というページではたと手が止まった。「一切抵抗しない(侵略した外国の指示に服従し、協力する)」が、5・1%もいるではないか!
想像力の欠如もここまで来ると恐ろしい。奴隷でもいいというなら、その尊厳のなさにがくぜんとするが、おそらくは意識下に無抵抗なら命は保証されるという子供じみた甘えがあるのではないか。しかし、強制収容、拷問、虐殺…そうした戦慄すべき事実は、今この瞬間も世界各地で繰り返されている。「一切抵抗しない」方には、自分や自分の大切な存在ののど元に刃(やいば)が迫る場面を真摯(しんし)に想像していただきたいと切に思う。
回答を男女別で見ると、女性は6・6%と男性3・3%の倍であった。これで思い出したのが、自衛官募集担当者の「安保法制論議の影響で、志願者が激減している」という言葉だ。母親たちが「危ないから」と止めるらしい。
国会での自衛官の危険が増す云々(うんぬん)の議論も、むなしさを禁じ得ない。そもそも事に臨んでは危険を顧みず国民を守ると宣誓しているのが自衛官だ。だからこそ尊いのだ。より重く論じられるべきはむしろ国民の安全であるはずだ。
多くの国民が長く「憲法に守られた平和」という幻想に陥ってきた中、その欺瞞(ぎまん)を骨身にしみて感じてきたのが拉致被害者のご家族であろう。
予備役ブルーリボンの会が先般開催したシンポジウム「拉致被害者救出と自衛隊」で、あるご家族が「自衛隊が動くことで隊員さんの命がかかると思うと申し訳ない。その一方で、一国民としては『平和』な日本で拉致がまかり通るのはなぜと感じる」と思いを吐露された。これに対し荒谷卓(あらや・たかし)・元陸自特殊作戦群長は「1人助けるのに仮に自衛官10人が死んだとしても、それは作戦と技量が未熟なだけなので、気にされないように」と答えた。また、アンケートには、自衛官の妻から「お役に立てるなら、家族は喜んで送り出します」ともあった。前述の無抵抗派や母親らに聞かせたい。
27年7月23日 産経新聞「直球&曲球」掲載
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