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国家の意思と能力

更新日:2018年7月25日

荒谷卓


一般的に、航空機の迎撃能力あるいは代替報復能力を持たない国は、自国の領空が侵犯されてもその事実を公表せず、ましてや、相手国に警告等は与えない。


なぜなら、主権を侵害された事実を表明しておきながら対抗措置を行使しないということになれば、それは自国に主権を保全する能力がないことを国内外に知らしめることにしかならないからである。日本の場合、能力がないわけではないが、主権を保全する毅然たる意志力がないので、領空侵犯を何度繰り返される。


領空主権は絶対主権として国際条約(パリ条約、シカゴ条約)によって規定されているが、あくまで、当該国の権利であって、それを領空を侵犯する側の他国に強制力のあるものとするかどうかは、その国の意思と能力にかかわる問題である。


つまり、国際社会は、国民国家のような社会契約が確立された市民社会ではない。ジョン・ロックの言葉をかりるならば、主権国家からなる国際社会には、「確立され安定した公知の法、公知の公平な裁判官、正しい判決を敵等に執行する権力」は存在しないのである。


日本という国家においては、国民個人が銃器を開発し、他人を誘拐すれば、法を犯したとして裁判の上相応の罰則を受けるが、北朝鮮が核やミサイルを開発し他国民を拉致したからといって、それを違反行為とし裁判にかけ相当の罰則を科する社会契約は国際社会には存在しないということだ。


特に、拉致問題については、国際社会の共通課題として取り上げることは難しい。核やミサイル問題は、グローバル化を進展させようとしている米国をはじめとする諸国家には、共通の安全保障上の課題となりうる。つまり、グローバル化は世界の人口の半数以上を生きていくことすら困難な状況に追い込むことが予想されることから、この貧困層の抵抗すなわちテロを封じ込めることが安全保障の目的となる。貧困層のテロリストとグローバル化を推進する諸国家の絶対的実力差を逆転できる唯一といってもいい手段が核兵器をはじめとするNBCR兵器だからだ。


これに対して拉致問題は、ソマリア沖の海賊やイラクやアフガンで起きている誘拐人質交渉と同様、基本的に当事者国家間の問題である。北朝鮮側に拉致問題の解決を強制できる国際システムは存在しない。日本が主権国家として、その権限を行使するかどうかという意思の問題である。しかし、政府の方針は、「政府は北朝鮮に対し、すべての被害者を一刻も早く帰国させるよう強く働きかけています。」というものである。自分の意思の問題であるにもかかわらず、相手の意思に期待するというものだ。


私は、現役当時、国際対テロ会議に参加したおり、「日本政府が国際社会に自国民の拉致被害を積極的に公表しているが、自国による救出行動はなぜとらないのか。」とたびたび質問された。「国民が拉致されたんです!皆さんこれはひどい話でしょ。どうか助けてください」と言ったら、「君には、原状回復する権利がある。やればいいじゃないか。」「ひどい話だということに同意はできるが、私は、当事者ではないから、君に手を貸す義務も権利もない。」ということだ。


拉致問題の本質的問題は、国民の明確に主権が侵犯されているのに、それを保全する義務を有する政府が責任を履行する毅然たる意思を持たないということだ。国民がそうした国家としての態度を期待しているとは到底考えられない。だとすれば、他国の意思が政府の意思決定に関与しているのではないか。他国の傀儡として働いている裏切り者が存在するのではないか。いるとすれば、その者は日本国民の敵であり、相応の報いを受けさせなくてはならない。


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