葛城奈海
28年3月31日 産経新聞「直球&曲球」掲載
桜の季節を迎えた。しかし、何十年もの間、祖国の桜をめでることのかなわない同胞たちがいる。現憲法下で、拉致被害者救出に自衛隊を使うなどありえないと考える国民は多い。しかし、そうやって思考を停止する前に、考えてみてほしい。
クーデターなどで北朝鮮が騒乱状態に陥った場合、各国政府は自国民救出に動く。その時、日本はみすみすチャンスを逃すのだろうか。邦人救出には「当該国の同意」が必要とされるが、無政府状態になった場合はどうか。現に、フセイン政権崩壊後のイラクでは、国連の承認を得た代表部を「代行政府」と見なし、その同意を得て自衛隊は邦人10名の輸送を行っている。北朝鮮でも同様のケースに備えておくべきではないか。
折しも、今般の平和安全法制改定で、在外邦人等の保護措置が新設され、任務遂行型の武器使用も可能になった。救出へのハードルが下がったわけだが、いかに自衛隊が優秀でも情報や事前準備なしに任務遂行はありえない。法律上、自衛隊は外務大臣からの要請があって初めて救出にとりかかることができる。備えるとは具体的に、外務省が被害者の所在情報を収集し、その情報を元に自衛隊が救出に向けて訓練することだ。
5日、予備役ブルーリボンの会が開催したシンポジウムで、元陸自特殊作戦群長が世界各国の自国民救出の事例を紹介した。多くの国々が自国民とともに他国民も救出しており、日本人もそこに含まれていたのは意外だった。情けないことに、これまで日本は助けられる一方だったのだ。
同じ敗戦国ドイツは、1997年アルバニア暴動で、戦後初めてNATO(北大西洋条約機構)域外へ軍を単独派兵し、自国民とともに他国民も救出したことがきっかけで、軍事・安全保障でも独立した意思を持つ政治大国として国際社会に是認され、以後、国際政治の重要なプレーヤーになった。
「自衛隊も自国民保護という目的で世界の国々の人を救出する実績を重ね、北朝鮮での拉致被害者救出に備えるべきだ」。元群長の言葉が現実になったとき、日本は国家の尊厳を取り戻せるのではないか。
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