伊藤祐靖
えっ、まさか……。数日前にこの島に中国人たちが上陸している。中国の戦闘機が来てるのか?? ジャングルの中にあって、真上の空しか見えない私は国籍が気になった。石垣島を出港した昨晩から何か大きなことが起きたのかもしれない……。
大きなことが起きているなら、なおさら日本の国旗を山頂付近に掲げるべきなんだ。早く国旗を吊り下げられる崖を発見しなければならない。
またもや、ジェット機の音がした。同じジェット機が1分程度で同じ場所に戻ってくるなんてことはない。2機以上...いる。日本と中国の戦闘機がドッグファイトしてるのか??
キーーーン、ゴー また、通過した・・・・・・
時計を見ると、06:30だった。いくら探してもスキッと切れ落ちる断崖は見つからない。尾根に出てから1時間経過している。予定では、旗の設置作業を開始しなければならない時間だ。焦る気持ちが、あきらめようとする心に火を付ける。そもそも、こんなところにこんな短時間で国旗を設置するなんてこと自体が無理な話なんだ。計画通りにいくサクセスストーリーなんて現実にはないんだ。ここに国旗を設置する計画は誰にも話していない、黙って帰れば途中で断念したことは、ばれない……。
「始まった、始まった、俺の根性なしの部分がのさばり出してきた。あと15分だけ、探そう。あと15分間踏ん張れば、あきらめてしまった自分を許せるだろう・・・・・・。今ここで止めてしまえば俺は、一生後悔というものを引きずっていきていくことになる。そんなことに比べればたったの15分だ。あと900秒我慢してみることにした」。
15分経過。
「あと5分だけ、あと5分だけ探そう……」と思った瞬間
目の前にいきなり、水平線が現れた。そして、私より低い位置を飛んでいる海上保安庁のジェット機が見えた。飛行機を見下ろしたのは人生で2回目。1回目はパラシュートで降下中だったのでパラシュートごとエンジンに吸い込まれそうな気がして恐怖を感じたが、今は、地に足がついている。恐怖感なんかない。
今俺は、人生で最高の景色を見ているのかもしれない……。
これが、俺の人生で最高の景色だ。
これ以上の景色を見ることはないだろう。
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